アレルギーは、生体が自分にない物質を異物と認め、それを排除しようとする現象です。植物、薬物その他あらゆるものが異物になりうるのですが、かたい金属とて例外ではありません。歯科、整形外科などで使われる医療用のもの、ネックレス、腕時計、ピアスなどの装身具、そして楽器、Gパンの金具等々、揚げればまだまだあります。これらに使われている金属はと言いますと、アルミニウム、金、スズ、鉄、白金、パラジウム、インジウム、イリジウム、亜鉛、マンガン、銀、コバルト、水銀、クロム、銅、ニッケルそしてチタンと金属の種類もたくさんです。
ここで実際の症例を紹介して話を進めてみたいと思います。
Aさん(58歳、男性)は腕時計をつけた部分に湿疹が出るようになりました。これは汗の出る夏期に顕著でした。金属アレルギーを疑って、アレルギーが出にくいとされているチタン製の時計に替えたところ湿疹は全く出なくなりました(接触皮膚炎)。
後日、歯科治療にそなえて金属のパッチテストをしたところ、亜鉛、マンガン、コバルトそしてクロムに陽性反応を認めました。歯科の先生にはこれらの金属を含まない合金で治療していただくように連絡をとりました。はたして金属にアレルギーがあるのか、数ある金属のうちどれに反応するのかを確かめるのがパッチテストです。金属アレルギーの診断には欠かせない検査法です。
Bさん(19歳、女性)は両耳のピアス部位がジクジクしてその下がしこりになり、更に全身に湿疹が広がってしまいました。パッチテストの結果、ニッケルが強陽性反応でした。ニッケルアレルギーと診断して、両耳の病変部をしこりを含めて切除縫縮したところ全身の発疹はやがて消退しました。この方の場合、ピアスのニッケルが血液によって全身皮膚に運ばれてアレルギー反応を起こしたものと考えられます(接触皮膚炎症候群)。
Cさん(26歳、男性)はニッケルを扱う仕事についています。手には常に湿疹があったのですが、あるとき、ニッケルが蒸発して全身皮膚が紅くはれてしまいました(全身性接触皮膚炎)。会社では職場転換を検討しているようです。
Dさん(37歳、女性)。2年来、手のひら、足のうらに膿を持ったブツブツが出たり消えたりして紅く皮が剥げるようになりました。掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)と診断され、原因の一つである扁桃炎もなかったため、金属アレルギーを疑い、金属のパッチテストをしたところスズに強陽性を示しました。スズ含有の金属を金合金に替えたところやがて症状はなくなりました。
金属アレルギーには、他に歯科金属による舌炎、口内炎の局所的な症状、そして全身的な扁平苔癬(へんぺいたいせん)、貨幣状湿疹、汎発性湿疹といわれるものがあります。治りにくい湿疹、不思議な発疹、それは金属アレルギーかも知れません。
二條 貞子
二條皮ふ科クリニック (2010/11)